アデイーチェ『アメリカーナ』
- 作者: チママンダ・ンゴズィ・アディーチェ,くぼたのぞみ
- 出版社/メーカー: 河出書房新社
- 発売日: 2016/10/25
- メディア: 単行本
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ナイジェリア出身で、米国で高等教育を受け、現在はナイジェリアとアメリカを行き来して活動している、チママンダ・ンゴズィ・アデイーチェの長編。
◯あらすじ
恋人のオビンゼを祖国へ残しアメリカへ渡ったナイジェリア人(イボ人)女性イフェメル。憧れのアメリカで様々に期待を裏切られ、生活にも苦労し、「黒人」という人種階級に組み入れられつつも、何人かの恋人と交際し、ブロガーとしても成功する。が、どうも心は不安定で、結局、ナイジェリアこそが、そしてオビンゼこそが、自分が根を埋めることができる場所だと帰国を決意する。たがオビンゼには妻子がいるらしいのだ。
◯アメリカーナ
「アメリカーナ」とは、日本語にするなら、アメリカもん、とでも言ったものか。東京もんとか。憧憬、羨望、あるいは軽蔑。ニュアンスのある言葉だと思う。
◯帰る場所
イフェメルにとって、憧憬の国アメリカは根を埋める国ではなかった。が、帰ったナイジェリアはどうか。アメリカーナになって帰ったイフェメルは、ナイジェリアで今度はリエントリーショックに苛まれることになる。
結局、イフェメルの故郷はオビンゼという人にしかなかったのかと知れない。妻子あるかつての(そして一生の)恋人との復縁を、支持できるかどうかは読者それぞれだと思うが(作者は誰もが支持できるようには書いていない)、宙ぶらりんで落ち着くところをもつことができない孤独な個人たちが、心の故郷を求めたのだと受け入れるしかないし、受け入れられないにせよ、この人しかいない!と思う相手との恋愛ではこうしたことも起こり得るかも知れないし、彼女らが引き裂かれることになった原因は同情し得るものではあるが…
◯アメリカ
憧憬のアメリカと現実のアメリカ。実際に来てみると、思っていたような場所じゃなかった。アメリカにオンボロのクルマが走ってるなんて、アメリカに立ち小便する人がいるなんて、先にアメリカへ来てたおばさんが忙しくてささくれ立ってしまっているなんて!
◯UK
ビザが取りにくいのはアメリカと同じです。イフェメルの永遠のボーイフレンド、オビンゼ君が移民を試みる国。なお彼、ブローカーが連れてきた、ビザ用に偽装結婚する相手の女の子にほんとにキュンとしたりして。
◯ナイジェリア人
ナイジェリア人に風呂場のリフォームを頼んではいけない。仕上げがちゃんとしているガーナ人に依頼すること。
◯イボ人
イボ人はイボ人同士の時でも英語で話しかけてくるのはなぜだ。
◯黒人女性の髪
この小説、髪が重要なモチーフになっている。黒人女性の地毛がどんな感じかなんて、知ってた?
◯結婚
結婚した後で、この人だ!と思った相手と出会って(再会して)しまったら、どうすべきか。小説としては、諦める、仄めかす、描かない、逃避行。「心地よい沈黙を共有」できる相手と結婚したいものです。
◯ブログ
ヒロインのイフェメルは成功したブロガーなので、作中にもブログ記事が出てくるのだが、これが全然面白くないのだ。作中作の難しさ。人気ロックバンドが主人公なのにその楽曲が全然イケてないとか、ヒロインが恋するイケメン人気デザイナーの作った家具が野暮ったいとか、あるあるー!
アメリカで「黒人」として生きている時、彼女が関心をもつ社会生活の側面…、恋愛やセックス、髪型や話し方、ファッションや人の言動は、アイデンティティの政治と結びつくものになる。が、ナイジェリアへ帰り、アメリカーナになったイフェメルのそれへのこだわりは、彼女を単にスノッブに見せてしまうようにも思えた。
◯オバマ
恋人ブレインとの冷めた関係をホットにしてくれた共有の関心事。トランプでホットになった恋人たちはいないだろうなぁ。
◯ナイジェリアの映画
冒頭の美容院でも女性スタッフがナイジェリアの映画はいいと褒めるシーンがある。ナイジェリアは映画産業が盛んでノリウッドと呼ぶそうだ。ハッピーエンドになる作品ばかりなのは、アフリカは生きるのが大変だかららしい。映画のチケットは高いので、DVDを買って家でみるのが一般的。ナイジェリアで映画の料金が高いのは、映画館内は暗いので犯罪が発生しやすいため、裕福な者のみに観客をしぼる為だとか。
◯ウジュおばさん
イフェメルが慕っているウジュおばさん。アメリカでは苦労して試験にパスして医者になりましたが、ナイジェリアでは政治権力者の情人で子供も出来ましたが、権力者が突然死してから彼女の運命がガタガタと変わります。この辺の唐突さ、『精霊たちの家』みたいな作品を好む人は気に入りそう。