宮部みゆき『ステップファーザー・ステップ』

双子の男の子(どうにもカワイイ!)が出てくる愉快な泥棒小説。いちおうミステリーだか謎はほんとにライトなもので、ユーモアと淡いペーソスで読ませる。実は宮部みゆきって初めて読んだんだけど、凄いな上手いもんですね。

語り手は泥棒で、浸入の準備として、標的の家の隣家の屋根に登っていたところ、風雨の中、落雷に遭って転落。その隣家の家の双子の少年たちに助けられる。実はこの双子、両親がそれぞれ浮気をして出て行ってしまった、遺棄児童だったのだ。二人での生活を続けるには、お金も要るし、親も要る、だから父親になって、と頼まれた泥棒は、怪我で動けぬ状況等々もあって、「お父さん」と呼ばれるのとになってしまう。

この双子たちは、人格が完全には分割されていないようのところもあって、いかにも双子らしい双子だ。ひとつの文を話すのに、交互に口を開いたりする。一つの人格のインターフェイスが二つあるような感じ。この喋り方がまたカワイイのである。

両親ともが不倫をして出て行ってしまっている、崩壊した家庭である。しかし年齢以上にしっかりしていて(大人びているということではない)、家事能力もある双子は、しっかり家を守る。パンダコパンダのミミちゃんみたいに。泥棒もだんだん「お父さん」が板についてきて、双子が愛おしくなってくる。だが、自分はホンモノの父親ではなく、これが疑似家族に過ぎないという自覚はあり、いつかホンモノの父親が帰ってきて、この関係にも終わりが来てしまうだろうと考えると、寂しくなるのだった。でも、どんな家庭がホンモノで、どんな家庭がニセモノだなんて、一体だれに言えるだろうか。

 

ステップファザー・ステップ (講談社文庫)

ステップファザー・ステップ (講談社文庫)